原作『グランブルーファンタジー』の世界観を参考にしたオリジナルやる夫系スレのWiki

母は身体が弱かった。
私を産めるかどうか、ソレに関わる程に。

それでも母は私を産むことを選んだ。

その為に私は、今まで生きてきたのだろう、と。
その為に…あの人に出会って、結ばれたのだろう、と。

そう、母は語ったらしい。


父は生粋の狩人だった。
色々な島へ飛び回って、様々な獲物を狩って。

そうして…母と出会った。

父は母を愛していた。
それまでの人生から嘘のように、その島に定住して。
その人生の終わりまで、母と共に暮らそうと想うほどに。

そうして…最後に一体の怪物へ立ち向かって。
父は狩人の人生を終えたのだ。


私が託されたものは一つ。
コトハ、という私自身で。

私に遺されたモノは一つ。
イェーガー、という狩人としての生き方だった。






『と、ここまで聞いていれば心温まるしんみり話なのですが』

『はい、あーん』
「あーん…」

『しかも話すら聞いていないのですが』
『まあ夫婦仲が睦まじい、ということにしましょう』

もぐもぐ、と。
一家の心温まる団欒は続く。

『今の話の流れだとお母さん亡くなってません?とよく言われるのですが』
『今の話の流れだとお父さんも亡くなってません?ともよく言われるのですが』
『まあ誰も亡くなった、なんて一言も言ってないんですけどね』

『コトハちゃん、さっきから誰に説明してるの?』
『誰でしょう。きっとあらすじのようなものでしょうか…』

『しかしこう言っておきながらお父さん、別に狩りは辞めてないじゃないですか』
『いえ、ご飯の量が減ってしまうのでこのままでいいのですが』

「ん?いや確かに食べる為に狩りはするけど、獲物はコレだからな」
「あの弓が扱えないなら、もう"狩人"イェーガーとしては終わってるのさ」

『そういうものですか』
「そういうものさ」

もぐもぐ、と。
ありふれて何処にでもあるような団欒は続く。

「実際、コトハが生まれるときは母さん大変だったし?」
『お父さんが最後の狩りから戻ってきた時も大変だったよ?』

『いやぁあの頃は若かったみたいに言われましても…』
『まあ、何でもいいですけど。二人が熱々なだけですし』

「まあ何だ、コレもコトハに自由に生きる図を見せるためにだな…」
『本音は』
「母さんが可愛いから……」
『あらやだ……』
『惚気じゃないですか。おしどり夫婦ですかそうですか』

『でも、お母さんとしてはコトハに自由に生きて欲しいなーって言うのは嘘じゃないかな』
『それはお父さんも同じだろうけど、ね?』

『自由に、ですか…別に私は自由に生きているつもりですけどね』
『"コレ"だって、私が自分で決めて継いだものですから』

よいしょ、と。
立てかけてあった弓を背中にかけて、コトハは立ち上がった。

『私は"狩人"イェーガーですよ。そう決めた、あの日から』
『それはきっと…お父さんも同じだったんでしょうけど』

「そういうものかい?」
『そういうものなんです』

「ならいいさ。んで、そろそろ行くのか?」
『ええ、今日もしっかり食べましたし…狩りの時間です』
『はいはい。気をつけて行くんだからね?』
『分かってますよ。では…行ってきます』

彼女は家を出て、森へ向かう。
それは…ありふれた、いつも通りの日常で。

きっと、何処にでもは無いような…家族の形だった。



その昔、籠の中の鳥は一人の狩人と出会って。
狩人は、その鳥の為に人生を遂げる事を選んだ。
鳥は狩人の為に生きる事を選んで…精一杯、音を奏でる事を選んだ。
二つは結ばれ、混じり合って。また新しい命が産まれて…
それはまた、新たな狩人の誕生だった。


これは…"狩人"イェーガーの物語。
彼女が旅に出る前の、ほんの少しだけ昔の話である。

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